海水配管トレンチとタービン建屋の縁切りは計画からもうすぐ1年 現状は?
前回、「2ヶ月経っても凍らない海水配管トレンチ 凍土壁は本当に大丈夫か?」で第24回監視評価検討会の話を書きました。「ガチンガチンに凍らせるべき、その方法を次回までに考えてきて下さい。」という宿題に対して、東電が今回出した答は、氷とドライアイスを入れて凍らせてみます、という回答でした。
今回は7/23に行われた第25回監視評価検討会の話を簡単にまとめます。
1. 今回決まった対策の概要
7/23の第25回監視評価検討会では、大きく二つの話題が議論されました。一つはこのあとで紹介する海水配管トレンチを凍らせる話、もう一つは昨年8月12日と19日の3号機の瓦礫撤去において放射性物質が大量に飛散したことの説明と今年1号機の瓦礫撤去を計画しているので同様の飛散を起こさせないための対策です。こちらの話は「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」にも関連していますが、今回は取り上げません。
では、海水配管トレンチの凍結の話です。まず最初になぜこのトレンチの凍結を行うのか、ということを再度記載しておきます。
2011年にタービン建屋から海水配管トレンチを通じてスクリーンにまで汚染水が到達し、大量の汚染水が海に流出したことはこのブログでかなり詳しく取り上げています(「2011年4月の汚染水海洋漏洩事故時に行われた「ビーバー作戦」を再現します 目次」参照)。海水配管トレンチには今も高濃度汚染水がたまっており、これが漏れ出して海に漏洩した場合の被害は大きいため、早くタービン建屋と海水配管トレンチの間の縁切りをしないといけない、というのが昨年7月頃からの監視評価検討会並びに汚染水WGでの議論でした。
そのため、2013年8月の第3回汚染水WGにおいて、凍結工法による止水を最初に行うということが提案され、小規模なモックアップ試験も行いながら半年以上準備をして行ってきたのがこのトレンチの凍結なのです。凍結をした後でトレンチにたまっている汚染水を抜いて、最終的にはトレンチにコンクリートを充填して埋めてしまうという予定です。
前回に引き続き、一番進んでいる2号機トレンチの立て坑Aの状況が説明されました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 4ページより)
上の図で一番下の4枚の図は、パッカーを入れて凍らせようとしているところの断面図で、4月から約1ヶ月ごとに温度変化がどうなったかという経緯を左から右に並べて示したものです。当初の目論見通りに凍った部分もあるのですが、前回の議論にもあったように、一度凍ってもまた溶けてしまったり、温度が上がったり下がったりしている部分があります。その傾向は前回の検討会から変わっていません。前回の検討会において報告があったように、測温管を凍結管に一部変更するというような対策は打ちましたが、結局それは効果がありませんでした。
今回は、前回の指摘を受けて熱量の計算結果が出されました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 7ページより)
ここで書いてあることは一番上にまとめられていますが、冷凍機の能力自体は十分に足りているということ、そして7/16から冷媒の流量を1.3倍にしてみたが、凍結管内の冷媒の温度低下は1度未満しかなく、流量を増やしても効果がなかったということです。なので、前回更田委員が言った、冷凍機の能力を2倍3倍にしてでもガチンガチンに凍らせるというのはこのままでは無理です、という答をだしてきたということです。
では、このままで凍るのか?詳細は省略しますが、今回の解析で水流があったら凍らないという答がでています。ではどうしたらいいのか?
これに対しては、現在の汚染水の水温15℃をもっと下げるか、水の流速を下げるのが効果的という解析結果が出ています。しかしながら、水流を抑えるというのは現実的には難しいということで、水温を下げるための氷やドライアイスの投入という案が出てきました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 11ページより)
でもどこから入れるのでしょう?海水配管トレンチの構造についてこの一連の記事では説明していなかったので、復習のためにもう一度説明します。ご存じの方は読み飛ばして下さい。
立て坑Aというのは、タービン建屋のあるO.P.10m盤のところに作られた立て坑で、O.P.-0.4mのところでタービン建屋と接続し、深さはO.P.-12mまで深く掘られているものです。O.P.についてわからない方は、2012年の記事ですが「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」をご覧下さい。

(2013年8/21 第3回汚染水WG 資料2 41ページより)
立て坑Aには、メンテナンスのためペントハウスと呼ばれる穴があり、海水配管トレンチの中に降りていけるような構造になっています。(実際には線量が高いので今は人が降りることはできないでしょう。)

(2013年8/21 第3回汚染水WG 資料2 44ページより)
今回氷やドライアイスを投入するのは、ペントハウス側からか、あるいはすでに掘削してあけている開口部からになります。パッカーを入れて凍らせようとしているのはペントハウス側ではなく、タービン建屋との接続部分である既掘削箇所ですので、そちらから入れた方が効果は高いことが見込まれます。そこで、基本的には既掘削箇所からの投入を考えているということです。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 18ページより)
この他にもいろいろな対応策を検討した結果、下の表にまとめられているように、氷とドライアイスの投入、トレンチ躯体外側への凍結管配置、測温管の凍結管への変更、追加パッカーの設置、間詰め剤の充填などを行っていく事が対策としてあげられました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 20ページより)
順番としては、氷とドライアイスの投入、トレンチ躯体外側への凍結管配置、測温管の凍結管への変更を行っていき、その後に追加パッカーの設置、間詰め剤の充填を行っていく計画です。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 21ページより)
この計画を聞いて、更田委員は「一番良いのは凍結管を増やして凍結管の間隔を狭めることであるが、凍結管を増やすことはトレンチの構造上難しいと東電から聞いている。そうなると、作業環境も非常に厳しいので、この抜本対策に半年も一年もかけていられないため、凍る可能性があるならば氷でもドライアイスでも投入してもらって凍るかどうかすぐに確かめて欲しい。」とGoサインを出しました。そして、下のスケジュール表を見て、氷とドライアイスの対策の効果が見えてくるお盆明けにもう一度この監視評価検討会を開催し、次の手を考えようということになりました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 22ページより)
2. 専門家からの意見や指摘
以上が第25回監視評価検討会でのトレンチの凍結に関する議論の概要です。しかしながら、専門家の委員の方からはいろんな意見が出ていました。その中で印象的だった話をいくつかご紹介します。
省略した話についてはコアジサシさんのまとめを参考にして下さい。
京大 高木先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
難しい数式は今回省略したため細かいことはご紹介しませんが、資料の8ページから10ページにかけて示してある凍結管から汚染水への熱収支計算を示した式の考え方がおかしい、と激しく突っ込みを入れました。それに対して東電の担当者は固体の熱伝導率の話を聞かれているのに対してヌッセルト数やレイノルズ数と言った熱伝達率を出してきてやり込められてしまいます。
規制庁公式YouTubeより(00:51:30頃)(一部省略した要約)
高木先生:「それを考えるときに、熱伝導率というのはここにパラメーターが入っていないのですが、別途、式があると考えて良いのでしょうか?」
東電担当者:「はい、熱伝導率αiとかにつきましても、こちらの式には書いておりませんが、別途式がございまして、レイノルズ数とかヌッセルト数または流速等の式を用いまして計算を行っております。」
高木先生:「今は流体の話をしているのではなくて、固体の熱伝導のことを聞いているんですが?」
更田委員(割り込んで):「あのね、ヌッセルト数というのは熱伝達率そのものですからね、無次元熱伝達率で。今高木先生の質問は熱伝導率ですから、そこでレイノルズ数が出てくるのはぶっ飛びですよ、それ。」
東電担当者:「失礼しました。仰るとおりでして、凍結管、除熱量の方にはヌッセルト数は入っておりませんで、通常の熱伝導計算となっておりますので、熱伝導率は氷の熱伝導率が入っております。ヌッセルト数が関連しますのは熱伝達率のαiの方でした。訂正いたします。」
福島大学 渡辺先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
(以下は書き起こしではなく要約です)
渡辺先生:「この計算結果を見る限り、ガンガン冷やしてもダメだ。」
東電 松本部長:「凍結管を増やして面積を増やそうと考えている。」
渡辺先生:「結論として言おうと思っていたが、氷を作ってしまうと冷媒ではなく氷との温度との差で温度差が小さくなってしまうのであまり冷却することはできない。冷却面積を増やさないとダメ。」
渡辺先生:「一度凍らせればそれでいいというものではないので、氷にしても継続して投入しないといけないのではないか?それは計算で出せるはずなので計算も大事である。」
東電担当者:「建屋から来る15℃の汚染水を10℃に下げるには1日5.4トンの氷が必要になる。もともと立て坑にある水についても温度を下げる必要があるため、初期については、1日10トンくらいを5日間くらい集中して投入し、それ以降は毎日5.4トン投入することを計画している。」
渡辺先生:「凍結管の間隔を狭めると流速が速くなる可能性があるが、そこはどう考えているのか?」
東電担当者:「間隔が狭まると理論上は流速は上がるが、文献等の考え方では流路の抵抗が増すので流速もある程度一定に収まると考えている。」
渡辺先生:「凍結管が届かない場所などの問題があり、タービン建屋から常に水が来るとなると、凍ってもすぐに溶ける可能性があるのでその対応が必要。」
更田委員:「今の関連で、間詰め剤をいずれは入れることになるが、完全に凍ってから間詰め剤を入れるのか、多少間隙が詰まった段階で間詰め剤を入れてもいいと考えているのか、そのあたりの判断はできているのか?」
東電 伊藤ユニット所長:「氷とドライアイスの投入後2週間経った8月中旬には見通しを決めて、間詰め剤を入れるかどうか判断したい。」
名古屋大学 山本先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
山本先生:「今回の手戻りのような事をなくしたいという観点からの質問とコメント」
山本先生:「今回、どの方面の専門家のアドバイスを聞いたのか?」
東電担当者:「凍結という位置づけでは社内でもいない。いろいろなアイデアの中で凍結がでてきた。立て坑の直近に壁を作らないといけないので矢板を打つわけにも行かなかった。社内のダム・地下工事をやるところのアドバイス、施工会社、コンサルなどのアドバイスをうけながら実施してきた。」
山本先生:「我々が持っている原子力安全の中核の知識ではカバーできない結構重要な問題があり、そこでこれまでにも手戻りが結構起こっている。冷凍の専門家はそれなりにいると思うが、東電はそういう人達のアドバイスは聞いていないようだし、規制庁の方でもきいていないのではないか?1Fでは幅広い知識が必要なのにそれが結集できていない。ある特殊な分野の工事を行うときにはその方面の専門家の知識を聞くような仕組みを作った方がいいと思う。」
更田委員:「仰ることはもっともでスポット的に専門家を呼ぶことは考えているが、海水配管トレンチの滞留水の凍結という専門家はいない。電熱や流体の専門家ということになると、ここにいるメンバーと、言葉は悪いが似たり寄ったりになる。」
更田委員:「凍土壁の場合は4名の専門家に加わってもらった。今回も実は冷凍の専門家、凍結の専門家がいないかと探したが、スケールが違って、これだけ大きなところを冷凍させるという事にぴったりの人はいなかった。」
首都大学東京 橘髙先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
橘髙先生:「技術的に経験のない凍土壁よりもコンクリート壁の方がいいと私は再三言っている。このトレンチについても当初の東電の計画ではグラウトを詰める、ということだったが、いつの間にか汚染水を除去しないといけないということになって止めないと行けない、となった。でも最終的な目的は、トレンチを充填すること。水中不分離のコンクリートを充填する技術が今はあるので、そういう検討もして欲しい。今のやり方では立て坑の10mの高さの水が対流するので凍らないと思っている。立て坑4つのうち1つくらいは先に水中不分離のコンクリートの充填を先にしてもいいのではないか?」
東電担当者:「水中でも数10mセルフレベリングできる材料を開発中。ただし、トレンチは70mあるので、そこまで動くかどうかは実証実験をするつもり。一度コンクリートで打設してしまうと失敗が許されないのでまずは凍結。次に入れる材料を配管などに密着できるものとして現在開発中。」
橘髙先生:「いずれにしても充填はするわけですね。だったら今から充填したらいいのでは?」
更田委員:「汚染水ごと固めてしまいたくない。」
橘髙先生:「水中不分離というのは粘性が高くて表面張力が下から固まっていくので汚染水とは混ざらないのでそれは大丈夫なはず。」
更田委員:「水平部が長いのでちょっと難しいのでは。」
※水中不分離性コンクリートって何だ?と思ったので簡単に調べてみました。
「水中不分離性コンクリートとは?」

(コンクリートプラント・マニュアル より)
セルフレベリングというのは、何もしなくても水中で水平に広がっていってくれることを言うようですね。ただし、トレンチの場合はその水平方向が70mもあるので、そこまで広がってくれるのかどうか、ということが技術的な課題のようです。
3. 氷の試験投入開始
7/23の議論を踏まえて、翌7/24には氷の試験投入が開始された事がアナウンスされました。

(7/24 東電HP 報道配付資料より)
この氷やドライアイスの投入でどれくらい効果があるかは8月中旬にならないとわかりません。もしうまく行かなかったときには次はどんな対策を考えるのでしょうか。
この問題については引き続き取り上げていきたいと思いますのでぜひ今後もこのブログを覗きにきてください。
7/23の第25回監視評価検討会では、大きく二つの話題が議論されました。一つはこのあとで紹介する海水配管トレンチを凍らせる話、もう一つは昨年8月12日と19日の3号機の瓦礫撤去において放射性物質が大量に飛散したことの説明と今年1号機の瓦礫撤去を計画しているので同様の飛散を起こさせないための対策です。こちらの話は「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」にも関連していますが、今回は取り上げません。
では、海水配管トレンチの凍結の話です。まず最初になぜこのトレンチの凍結を行うのか、ということを再度記載しておきます。
2011年にタービン建屋から海水配管トレンチを通じてスクリーンにまで汚染水が到達し、大量の汚染水が海に流出したことはこのブログでかなり詳しく取り上げています(「2011年4月の汚染水海洋漏洩事故時に行われた「ビーバー作戦」を再現します 目次」参照)。海水配管トレンチには今も高濃度汚染水がたまっており、これが漏れ出して海に漏洩した場合の被害は大きいため、早くタービン建屋と海水配管トレンチの間の縁切りをしないといけない、というのが昨年7月頃からの監視評価検討会並びに汚染水WGでの議論でした。
そのため、2013年8月の第3回汚染水WGにおいて、凍結工法による止水を最初に行うということが提案され、小規模なモックアップ試験も行いながら半年以上準備をして行ってきたのがこのトレンチの凍結なのです。凍結をした後でトレンチにたまっている汚染水を抜いて、最終的にはトレンチにコンクリートを充填して埋めてしまうという予定です。
前回に引き続き、一番進んでいる2号機トレンチの立て坑Aの状況が説明されました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 4ページより)
上の図で一番下の4枚の図は、パッカーを入れて凍らせようとしているところの断面図で、4月から約1ヶ月ごとに温度変化がどうなったかという経緯を左から右に並べて示したものです。当初の目論見通りに凍った部分もあるのですが、前回の議論にもあったように、一度凍ってもまた溶けてしまったり、温度が上がったり下がったりしている部分があります。その傾向は前回の検討会から変わっていません。前回の検討会において報告があったように、測温管を凍結管に一部変更するというような対策は打ちましたが、結局それは効果がありませんでした。
今回は、前回の指摘を受けて熱量の計算結果が出されました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 7ページより)
ここで書いてあることは一番上にまとめられていますが、冷凍機の能力自体は十分に足りているということ、そして7/16から冷媒の流量を1.3倍にしてみたが、凍結管内の冷媒の温度低下は1度未満しかなく、流量を増やしても効果がなかったということです。なので、前回更田委員が言った、冷凍機の能力を2倍3倍にしてでもガチンガチンに凍らせるというのはこのままでは無理です、という答をだしてきたということです。
では、このままで凍るのか?詳細は省略しますが、今回の解析で水流があったら凍らないという答がでています。ではどうしたらいいのか?
これに対しては、現在の汚染水の水温15℃をもっと下げるか、水の流速を下げるのが効果的という解析結果が出ています。しかしながら、水流を抑えるというのは現実的には難しいということで、水温を下げるための氷やドライアイスの投入という案が出てきました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 11ページより)
でもどこから入れるのでしょう?海水配管トレンチの構造についてこの一連の記事では説明していなかったので、復習のためにもう一度説明します。ご存じの方は読み飛ばして下さい。
立て坑Aというのは、タービン建屋のあるO.P.10m盤のところに作られた立て坑で、O.P.-0.4mのところでタービン建屋と接続し、深さはO.P.-12mまで深く掘られているものです。O.P.についてわからない方は、2012年の記事ですが「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」をご覧下さい。

(2013年8/21 第3回汚染水WG 資料2 41ページより)
立て坑Aには、メンテナンスのためペントハウスと呼ばれる穴があり、海水配管トレンチの中に降りていけるような構造になっています。(実際には線量が高いので今は人が降りることはできないでしょう。)

(2013年8/21 第3回汚染水WG 資料2 44ページより)
今回氷やドライアイスを投入するのは、ペントハウス側からか、あるいはすでに掘削してあけている開口部からになります。パッカーを入れて凍らせようとしているのはペントハウス側ではなく、タービン建屋との接続部分である既掘削箇所ですので、そちらから入れた方が効果は高いことが見込まれます。そこで、基本的には既掘削箇所からの投入を考えているということです。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 18ページより)
この他にもいろいろな対応策を検討した結果、下の表にまとめられているように、氷とドライアイスの投入、トレンチ躯体外側への凍結管配置、測温管の凍結管への変更、追加パッカーの設置、間詰め剤の充填などを行っていく事が対策としてあげられました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 20ページより)
順番としては、氷とドライアイスの投入、トレンチ躯体外側への凍結管配置、測温管の凍結管への変更を行っていき、その後に追加パッカーの設置、間詰め剤の充填を行っていく計画です。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 21ページより)
この計画を聞いて、更田委員は「一番良いのは凍結管を増やして凍結管の間隔を狭めることであるが、凍結管を増やすことはトレンチの構造上難しいと東電から聞いている。そうなると、作業環境も非常に厳しいので、この抜本対策に半年も一年もかけていられないため、凍る可能性があるならば氷でもドライアイスでも投入してもらって凍るかどうかすぐに確かめて欲しい。」とGoサインを出しました。そして、下のスケジュール表を見て、氷とドライアイスの対策の効果が見えてくるお盆明けにもう一度この監視評価検討会を開催し、次の手を考えようということになりました。

(7/23 第25回監視評価検討会 資料1 22ページより)
2. 専門家からの意見や指摘
以上が第25回監視評価検討会でのトレンチの凍結に関する議論の概要です。しかしながら、専門家の委員の方からはいろんな意見が出ていました。その中で印象的だった話をいくつかご紹介します。
省略した話についてはコアジサシさんのまとめを参考にして下さい。
京大 高木先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
難しい数式は今回省略したため細かいことはご紹介しませんが、資料の8ページから10ページにかけて示してある凍結管から汚染水への熱収支計算を示した式の考え方がおかしい、と激しく突っ込みを入れました。それに対して東電の担当者は固体の熱伝導率の話を聞かれているのに対してヌッセルト数やレイノルズ数と言った熱伝達率を出してきてやり込められてしまいます。
規制庁公式YouTubeより(00:51:30頃)(一部省略した要約)
高木先生:「それを考えるときに、熱伝導率というのはここにパラメーターが入っていないのですが、別途、式があると考えて良いのでしょうか?」
東電担当者:「はい、熱伝導率αiとかにつきましても、こちらの式には書いておりませんが、別途式がございまして、レイノルズ数とかヌッセルト数または流速等の式を用いまして計算を行っております。」
高木先生:「今は流体の話をしているのではなくて、固体の熱伝導のことを聞いているんですが?」
更田委員(割り込んで):「あのね、ヌッセルト数というのは熱伝達率そのものですからね、無次元熱伝達率で。今高木先生の質問は熱伝導率ですから、そこでレイノルズ数が出てくるのはぶっ飛びですよ、それ。」
東電担当者:「失礼しました。仰るとおりでして、凍結管、除熱量の方にはヌッセルト数は入っておりませんで、通常の熱伝導計算となっておりますので、熱伝導率は氷の熱伝導率が入っております。ヌッセルト数が関連しますのは熱伝達率のαiの方でした。訂正いたします。」
福島大学 渡辺先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
(以下は書き起こしではなく要約です)
渡辺先生:「この計算結果を見る限り、ガンガン冷やしてもダメだ。」
東電 松本部長:「凍結管を増やして面積を増やそうと考えている。」
渡辺先生:「結論として言おうと思っていたが、氷を作ってしまうと冷媒ではなく氷との温度との差で温度差が小さくなってしまうのであまり冷却することはできない。冷却面積を増やさないとダメ。」
渡辺先生:「一度凍らせればそれでいいというものではないので、氷にしても継続して投入しないといけないのではないか?それは計算で出せるはずなので計算も大事である。」
東電担当者:「建屋から来る15℃の汚染水を10℃に下げるには1日5.4トンの氷が必要になる。もともと立て坑にある水についても温度を下げる必要があるため、初期については、1日10トンくらいを5日間くらい集中して投入し、それ以降は毎日5.4トン投入することを計画している。」
渡辺先生:「凍結管の間隔を狭めると流速が速くなる可能性があるが、そこはどう考えているのか?」
東電担当者:「間隔が狭まると理論上は流速は上がるが、文献等の考え方では流路の抵抗が増すので流速もある程度一定に収まると考えている。」
渡辺先生:「凍結管が届かない場所などの問題があり、タービン建屋から常に水が来るとなると、凍ってもすぐに溶ける可能性があるのでその対応が必要。」
更田委員:「今の関連で、間詰め剤をいずれは入れることになるが、完全に凍ってから間詰め剤を入れるのか、多少間隙が詰まった段階で間詰め剤を入れてもいいと考えているのか、そのあたりの判断はできているのか?」
東電 伊藤ユニット所長:「氷とドライアイスの投入後2週間経った8月中旬には見通しを決めて、間詰め剤を入れるかどうか判断したい。」
名古屋大学 山本先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
山本先生:「今回の手戻りのような事をなくしたいという観点からの質問とコメント」
山本先生:「今回、どの方面の専門家のアドバイスを聞いたのか?」
東電担当者:「凍結という位置づけでは社内でもいない。いろいろなアイデアの中で凍結がでてきた。立て坑の直近に壁を作らないといけないので矢板を打つわけにも行かなかった。社内のダム・地下工事をやるところのアドバイス、施工会社、コンサルなどのアドバイスをうけながら実施してきた。」
山本先生:「我々が持っている原子力安全の中核の知識ではカバーできない結構重要な問題があり、そこでこれまでにも手戻りが結構起こっている。冷凍の専門家はそれなりにいると思うが、東電はそういう人達のアドバイスは聞いていないようだし、規制庁の方でもきいていないのではないか?1Fでは幅広い知識が必要なのにそれが結集できていない。ある特殊な分野の工事を行うときにはその方面の専門家の知識を聞くような仕組みを作った方がいいと思う。」
更田委員:「仰ることはもっともでスポット的に専門家を呼ぶことは考えているが、海水配管トレンチの滞留水の凍結という専門家はいない。電熱や流体の専門家ということになると、ここにいるメンバーと、言葉は悪いが似たり寄ったりになる。」
更田委員:「凍土壁の場合は4名の専門家に加わってもらった。今回も実は冷凍の専門家、凍結の専門家がいないかと探したが、スケールが違って、これだけ大きなところを冷凍させるという事にぴったりの人はいなかった。」
首都大学東京 橘髙先生

(7/23 規制庁 公式YouTubeより)
橘髙先生:「技術的に経験のない凍土壁よりもコンクリート壁の方がいいと私は再三言っている。このトレンチについても当初の東電の計画ではグラウトを詰める、ということだったが、いつの間にか汚染水を除去しないといけないということになって止めないと行けない、となった。でも最終的な目的は、トレンチを充填すること。水中不分離のコンクリートを充填する技術が今はあるので、そういう検討もして欲しい。今のやり方では立て坑の10mの高さの水が対流するので凍らないと思っている。立て坑4つのうち1つくらいは先に水中不分離のコンクリートの充填を先にしてもいいのではないか?」
東電担当者:「水中でも数10mセルフレベリングできる材料を開発中。ただし、トレンチは70mあるので、そこまで動くかどうかは実証実験をするつもり。一度コンクリートで打設してしまうと失敗が許されないのでまずは凍結。次に入れる材料を配管などに密着できるものとして現在開発中。」
橘髙先生:「いずれにしても充填はするわけですね。だったら今から充填したらいいのでは?」
更田委員:「汚染水ごと固めてしまいたくない。」
橘髙先生:「水中不分離というのは粘性が高くて表面張力が下から固まっていくので汚染水とは混ざらないのでそれは大丈夫なはず。」
更田委員:「水平部が長いのでちょっと難しいのでは。」
※水中不分離性コンクリートって何だ?と思ったので簡単に調べてみました。
「水中不分離性コンクリートとは?」

(コンクリートプラント・マニュアル より)
セルフレベリングというのは、何もしなくても水中で水平に広がっていってくれることを言うようですね。ただし、トレンチの場合はその水平方向が70mもあるので、そこまで広がってくれるのかどうか、ということが技術的な課題のようです。
3. 氷の試験投入開始
7/23の議論を踏まえて、翌7/24には氷の試験投入が開始された事がアナウンスされました。

(7/24 東電HP 報道配付資料より)
この氷やドライアイスの投入でどれくらい効果があるかは8月中旬にならないとわかりません。もしうまく行かなかったときには次はどんな対策を考えるのでしょうか。
この問題については引き続き取り上げていきたいと思いますのでぜひ今後もこのブログを覗きにきてください。
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