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26年産福島米の全量全袋検査、10月までの現況のまとめ

 
おそらくこの記事にたどり着いた多くの方は、福島のお米の放射能について興味のある方だと思います。ですが、全量全袋検査が始まってもう3年目なのに、私が毎朝行っている朝のツイートがRTされたものを見て、「サンプリング検査では意味がない」とレスポンスしてきた人がいます。

福島県が平成24年から行っているのは、サンプリング検査ではなく全ての米袋を測定する全袋検査なのですが、この例をみてもおわかりのように、福島県においては原発事故の翌年から全袋検査を行っている事をいまだにご存じでない方もいると思います。

そのため、これまで何度も書いてきていることと重複しますが、福島県で平成24年(2012年)から行われている全袋検査の話を簡単に説明して、3年目になった今年の全袋検査の現況(10月末まで)についてまとめます。


1. 福島県で行っている全量全袋検査とその経緯

今年の8月末に「福島県で平成26年産米の全袋検査始まる!今年のポイントは?」においてこれまでの経緯は詳しく説明しているため、興味のある方はぜひそちらをお読みください。

簡単に説明すると、原発事故のあった平成23年(2011年)には、政府が決めたサンプリング検査では暫定基準値(放射性セシウムで500Bq/kg)を超える玄米はありませんでした(500Bq/kgちょうどというサンプルは二本松市でありましたが)。それを受けて福島県知事が10月に安全宣言を出しました。

しかしながらその後の11月になって自主的に測定した福島市旧小国村のコメから暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されました。さらにそれを受けた緊急調査によって、サンプリング検査で少しでも放射性セシウムが検出された約23,000戸の農家について再度検査をしたところ、全体の約0.2%の38戸から暫定基準値を超える玄米が検出されました。

この結果を受けて、やはりサンプリング検査ではダメだという話になり、全量を検査する体制を急いで構築することになりました。しかしながら、緊急調査はGe検出器を用いて行いましたが、約32,000検体の調査に2ヶ月近くかかりました。約1000万検体あると想定される全量全袋を測定するにはGe検出器では時間がかかりすぎて物理的に不可能ですので、簡便に迅速に測定できる方法を開発する必要がありました。これを可能にしたのが島津製作所など5社が開発したスクリーニング検査機です。

詳細は2年前に「福島県の米の放射能 検査方法と結果はこう理解すればいい!」に書いたので省きますが、スクリーニング検査機では約10秒で30kgの玄米1袋を測定できるようになっています。

10秒での測定なんていい加減だ、信頼できない、という人が必ずいるので説明をしておきます。通常、Ge検出器では約1kgのサンプルを測定しますが、玄米袋のスクリーニング検査においては30倍の30kgのサンプルを用いることと、上下から測定するなどで検出効率を2倍にすることで1/(30×2)=1/60に測定時間を短縮できるのです(詳しい話は「福島県の米の放射能 検査方法と結果はこう理解すればいい!」を参照のこと)。そのため、Ge検出器で通常10~15分程度かけて測定しているものを1/60の時間の約10秒で測定することができるようになっています。

なお、遮蔽が不十分なのではないか、というような懸念をお持ちの方もいると思いますが、その対策もされていますし、この全量全袋検査はあくまでスクリーニング検査であり、検査結果も目安の値でしかありません。スクリーニング検査の結果、基準値(放射性セシウムが100Bq/kg)を超える可能性のある数値(スクリーニングレベルといいますがその説明はここでは省略します)を超えたサンプルについてはGe検出器を用いて詳細検査を行うことになっています。

このあたりの仕組みについては、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHPに紹介されています。疑問に思う方は是非お読みください。

こうして平成24年度から全量全袋検査が開始されました。24年度は初年度ということもあり、収穫から放射性セシウムの検査までに1週間以上かかるなどのトラブルもありましたが、昨年は2年目ということもあり、ほとんどトラブルもなく全袋検査が行われたようです。


2. 「ふくしまの恵み」サイトの結果の読み方

さて、前置が長くなりましたが、このあとは全量全袋検査の検査結果の読み方と今年の現況を解説していきます。

前回の「福島県で平成26年産米の全袋検査始まる!今年のポイントは?」で書いたように、昨年(平成25年)は基準値超えが28袋でした。全袋検査が始まって3年目の今年は基準値超えの検体数を28袋からどれだけ減らせるか、もっというとゼロにできるか、ということが一番のポイントになっています。そして、もし基準値超えゼロを達成したら、全袋検査の終了はいつにするのか、ということが議論されていくことになると思います。

では、今年も8月末に二本松市で全袋検査が始まってから2ヶ月が経ち、現況はどうなのか、データを元に見ていきましょう。「ふくしまの恵み」HPに毎日データが更新されていきますので、本日11/2朝に更新された、11/1現在の平成26年産米のデータをチェックして行きます。

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2014年11/2の「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPより

11/1現在で7,667,584検体と、全体の約1100万検体の3/4がすでに検査を終了していることがわかります。ちなみに、1検体とは、先ほども少しふれた玄米30kg袋のことです。

私は毎朝このHPで更新されている各市町村の検体数をチェックして記録に残しています。従って、あとから振り返っても各市町村でどのような検体数の推移をしているかを確認することができるのです。26年産米の福島県全体の測定状況の推移をグラフにしたものが下のグラフです。折れ線グラフが測定検体数で、棒グラフが数値検出の検体数になります。

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なお、数値検出という言葉を簡単に使ってしまいましたが、この結果の数値の読み方を説明しておく必要があると思います。

このスクリーニング検査はあくまで基準値の100Bq/kgを超える検体があるかどうかをチェックするための大ざっぱな検査であり、正確な数値ではありません。あくまでも参考値として表示されています。そのため、測定下限値である25Bq/kg未満の数値が得られた場合は「測定下限値未満」という分類になります。それを超えたものは、25Bq/kgごとに25-50Bq/kg、51-75Bq/kg、76-100Bq/kgという分類で、全部で4分類になります。

私が毎朝ツイートしているときには、文字数の関係で「測定下限値未満」を「ND」と書き換えています。しかし、この「ND」の意味は、Ge検出器で正確に測定したものではなく、100Bq/kgを超える可能性があるかどうかのスクリーニング検査として求められる25Bq/kgの測定下限値以下であるだけ、しかもあくまで参考値であるということは敢えて補足しておきます。
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なお、先ほどは省略しましたが、スクリーニング検査において、基準値100Bq/kgを確実に下回ると判定するための値をスクリーニングレベルといいます。これは検査機によって異なるのですがだいたい80Bq/kg前後のようです。スクリーニング検査においてスクリーニングレベルを超える参考値が出た場合には100Bq/kgを超える可能性があるため、Ge検出器を用いた詳細検査で確定値を出します。

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(「福島の恵み」 11/1のデータ(公表は11/2)より)

そして、確定検査に回った検体についてはスクリーニング検査からはカウントを除外するというルールになっています。そのために、スクリーニング検査においては100Bq/kg以上という分類が存在しないのです。その代わり、詳細検査においては当然のことながら100Bq/kg超という分類があります。これが出ると、「基準値超えがあった」、とニュースにもなるのです(なお、蛇足ですが、厚労省の決めたルールで有効数字2桁で出すというルールがあるため、104Bq/kgの場合は100Bq/kgで基準値ギリギリとして公表されます)。


3. 今年の全量全袋検査の現時点(11/1)での結果

さて、今年は幸いなことに、現時点(11/2に公表された、11/1の測定結果)までは基準値超えはありません。もっというと、76Bq/kgを超えたものはありませんから、スクリーニングレベルを超えたために詳細検査に回ったものはないようです。

これまで6検体が詳細検査に回っていますが、結果は25Bq/kg未満として表示されています。このタイプの測定結果は昨年までもあったのですが、残念ながら詳細検査の結果は公開されません。ただ、Ge検出器を用いて測定しているので、25Bq/kg未満であっても10Bq/kgといった数値は出ているだろうということで、私のツイートにおいてはこの6検体も数値検出という分類に加えています。

なぜこのような詳細検査のパターンがあるかというと、会津美里町のようにほとんど全てが測定下限値未満である自治体は、自分の市町村の測定結果は全て測定下限値未満でした、と主張したいわけです。そのため、仮に1-2検体がスクリーニング検査で25-50Bq/kgに分類されると、そのサンプルについて自主的に詳細検査に回すようなケースがあります。そのようなケースでは、一度スクリーニング検査として集計されますが、詳細検査の結果が出ると、スクリーニング検査の集計からははずされ、詳細検査に分類されます(昨年の例については「25年度版:「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されている最新情報」参照)。

それとは別に、今年はまだありませんが、スクリーニング検査でスクリーニングレベルを超えた場合には詳細検査に回されます。この場合には必ず結果が公表されます。昨年までは、詳細検査で測定した結果、籾すり機などからの交差汚染であったことが判明したケースもありました。

平成25年は、詳細検査の結果、残念なことに100Bq/kgを超えたサンプルが28検体ありました。そのうち1検体は福島市の旧福島市でしたが、残りの27検体は南相馬市旧太田村でした。ただし、この旧太田村の基準値超えに関しては、昨年8月の福島第一原発での瓦礫撤去による影響かもしれないという話があり、結論は出ていないのですが、何らかの直接汚染(葉などに放射性物質が付着した事による玄米の汚染)があった可能性が高いということです(詳細については「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」参照)。

ついでですが、この件については10/31に規制委員会の更田委員がこの南相馬市の汚染については原発が原因とは考えにくいという見解を示したそうです。


4. 昨年までとの比較

さて、全量全袋検査も3年目ですので、過去2年と比較して、今年がどのような傾向にあるかを確認しておきましょう。まずは測定数の推移です。今年の分は11/1までしかありませんので、そこまでのデータで平成24年、25年と今年を比較しています。平成24年は全袋検査が始まった初年度ということもあり、まだコメの作付を再開していなかった地域も多かったためかやや少ない(6,772,515検体)ですが、平成25年度は11/1までで7,463,982検体で今年の7,667,584検体とほぼ同じです。

平成24年は最終的に約1034万検体、平成25年度は最終的に約1100万検体でしたから、今年も恐らく平成25年と同様に約1100万検体に達するものと思います。昨年よりもやや多いのは、今年になってコメの作付を再開している地域があるからでしょう。

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私の毎日のツイートを利用して、上海さんが数値検出の数を比較してくれていましたので、数値検出された検体数も過去2年と比較してみました。するとこちらは差が歴然としています。

平成24年度は数値検出(スクリーニング検査の参考値で25Bq/kg以上)が現在までに11,426検体、平成25年度は約1/3に減って3,913検体でしたが、今年はさらに減少して1,439検体です。明らかに昨年よりも今年の方が数値検出(25Bq/kg以上)の検体数が減ってきています。

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これは、過去3年間の調査によって、基準値超えをする原因にはどのようなものがあるかがかなりわかってきて、カリウム施肥を行う事を徹底するとか、交差汚染がないように気をつけるとか、多くの対策をしっかり取ってきた成果が4年目の作付で出てきているのだと思います。

今年予想される約1100万検体のうち、約3/4は検査を終了していますからもうヤマ場は超えたと思います。しかしながら、まだ最後まで予断は許しません。ただ、このペースで行けば、旧福島市の一部と、今年から作付を開始して実証試験を行っている地域で基準値超えが出ない限り、基準値超えゼロを達成するのも夢ではありません

今回は中間報告として、それまでに何か基準値超えが出るなどの事態がない限りは年末に最終的なまとめをしようと思います。今年も年末までは毎日その日の「ふくしまの恵み」サイトの更新状況をツイートしていきたいと思いますので、興味のある方はぜひ@tsokdbaのフォローをお願いします。

 
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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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