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トレンチの凍結止水とは結局何だったのか?-今年の監視評価検討会を振り返って-

 
今年も残すところあとわずかとなってしまいました。今年の話題は今年のうちに、ということで、最後の駆け込みでまとめます。
10月に「トレンチの凍結による止水は断念して結局充填剤で埋めることに。第27回監視評価検討会での議論」を書いてからすっかり間が空いてしまいました。その間に規制委員会の監視評価検討会も3回も開催され、状況は少しずつ変化しています。

今回は、毎回の細かい情報をまとめるのはやめて、概略をお伝えするとともに、監視評価検討会においても問題となった、凍結止水工法というのが意味があったのか、ということについても少し考えてみたいと思います。


1. 10月以降の3回の監視評価検討会における議論の概略

まず、10月に「トレンチの凍結による止水は断念して結局充填剤で埋めることに。第27回監視評価検討会での議論」を書いてから行われた3回の監視評価検討会について簡潔に記載しておきます。

10/31 第28回監視評価検討会

この時は山側サブドレンで高濃度のセシウムが検出されたという新たな議題(議題2)も加わったため、トレンチについてはあまり多くの時間を割きませんでした。
資料1:海水配管トレンチ建屋接続部止水工事の進捗について

前回の検討会の議論で、間詰め充填を行うということになったため、2号機立坑Aについて間詰充填を開始しました。この検討会のあった10/31時点ではまだ充填は完成しておらず、11月の中旬くらいに判断するポイントがありそうということで、この時は進捗報告を聞くという状態で終わりました。

参考までに、togetterのまとめと、公式の議事録を示しておきます。
togetterのまとめ
規制委員会の議事録

11/21 第29回監視評価検討会

資料1:海水配管トレンチ建屋接続部止水工事の進捗について

この時までには、2号機立坑Aと開削ダクト間詰め充填は完了しており、間詰め充填がうまくいったかどうかを立て坑に設置した測温管での温度変化(凍結するかどうか)と、揚水試験の結果が示されました。

測温管の温度変化からは、間詰め充填によって、これまで0℃以下にならなかったS2-2という地点でも0℃以下に低下し、一定の効果があったことが推定されましたが、11/17の揚水試験後に温度が上昇しており、完全にはタービン建屋とトレンチの間を閉塞することはできなかったことがわかりました。
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(11/21 第29回監視評価検討会 資料1 4ページ より)

11/17に行われた揚水試験では、立坑Aとはかなり離れた立坑Cから水を汲み上げてトレンチの水位を約20cm低下させました。しかしながら、揚水ポンプを停止するとトレンチの水位が上昇し、タービン建屋の水位が低下したことから、まだタービン建屋とトレンチの間に水の行き来がある事が実証されてしまいました。
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(11/21 第29回監視評価検討会 資料1 5ページ より)

しかしながら東電としては、新たな水中不分離性コンクリートを開発できたことから、このままトンネル部の充填を開始するという計画を示し、それが了承されました。

12/26 第30回監視評価検討会

資料1:海水配管トレンチ建屋接続部止水工事の進捗について

11/21の検討会において、トンネル部の充填が了承された事から、その充填が完了した頃を見計らって第30回の検討会が12/26に開催されました。

この時は、トンネルへのコンクリート充填が終わったあとに水みちがないかどうかを確認するための揚水試験の結果が一番議論の的となりました。

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(12/26 第30回監視評価検討会 資料1 6ページ より)

上のグラフではわかりにくいと思いますが、下のまとめに示してあるように、トンネル部の充填を行ったが結果としては不完全で、タービン建屋とトレンチとは若干の連通性が残っていることがわかったということです。しかし、東電はこのまま立坑部の閉塞を行って、それにより連通性を断ち切りたいとしています。

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(12/26 第30回監視評価検討会 資料1 10ページ より)

それに対し、揚水試験の方法が杜撰で、このやり方では立坑Aとタービン建屋の連通性を確認できていないという更田委員の指摘や、そもそもこの水位の変動をどう説明するのか、という規制庁からの厳しい指摘が相次ぎました。正月休みも利用して、もう一度揚水試験を行って連通性の確認をするように指示が出ました。ただ、立坑を充填するということについては異論はなく、計画を詳細に詰めて、立坑閉塞の前の1月下旬に再度検討会を開催するという事になりました。


2. トレンチの閉塞における凍結止水の位置づけ

今までざっと3回の監視評価検討会の議論の流れを説明しましたが、おそらく初めて読んだ方にはさっぱりわからないかと思います。そもそもトレンチの構造を理解していないと細かい議論にはついていけないと思いますが、リンクを張っている検討会の資料やこのブログの過去記事を読んでいただければそのあたりはわかってくると思います。

ここでは、初めての方にもわかるように再度トレンチとタービン建屋の「縁切り」について、その経緯を振り返ってみましょう。

そもそもタービン建屋とトレンチは水が通じるような構造ではありませんでした。しかし、東日本大震災の地震の震動やその後の津波により、タービン建屋とトレンチには水の通路ができてしまいました。

2011年、福島原発事故で炉心溶融という事態になってしまった原子炉を冷却するために3/12以降に大量に注ぎ込まれた冷却水の多くは原子炉で燃料と触れることによって高濃度汚染水となり、それが原子炉建屋からタービン建屋へと移動してどんどんたまっていきました。その汚染水は震災でできたヒビや穴を通じてタービン建屋からトレンチにあふれだし、さらに3月末には海側にあるスクリーンから500トンを超える高濃度汚染水が海に流出するという事態に発展します。これが福島近辺の漁業に多大な影響を与えた海洋放射能汚染の主要な原因です。

2011年4月当時、東電は当然のことながらトレンチの水を抜こうとしましたが、いくら抜いてもトレンチの水位がさがりません。この事からトレンチとタービン建屋はどこかでつながっているということがわかってきたのです(このあたりの話に興味のある方は少し古いですが2012年に書いた「昨年3/27のトレンチなどの水位検証により判明した衝撃の事実!」をお読みください)。ということは、トレンチの水を全て抜く=10万トン以上もあるタービン建屋の水を全て抜くということになってしまうのです。

当時2号機から海に流出した汚染水は非常に高濃度で、放射性セシウムで1×10^(9)Bq/L=10億Bq/L程度の濃度がありました。そして海側の流出はなんとか4/6に食い止めたものの、トレンチの中には高濃度の汚染水がたまったままになっているのです(ただしその後モバイル式処理装置の設置でセシウム濃度は1/100程度に下がっています)。

このトレンチにたまった汚染水を完全に除去するには、タービン建屋とトレンチの水の行き来を完全に止めることができればベストです。2013年夏にこの監視変化検討会の下部組織である汚染水対策検討ワーキンググループ(汚染水WG)が始まった頃から、更田委員はトレンチとタービン建屋の「縁切り」と呼んで、この縁切りをすることが今後のリスクを下げるための重要な一歩であると位置づけてきました。

そして、第2回の汚染水WGにはすでに東電側からパッカーを用いた凍結止水という案(リンク先資料1の49ページ)が考案されています。この方法については特に大きな異論は提示されず、別の場所でのモックアップ試験を行ったあとに2014年4月に開始されました。しかし、2ヶ月経っても凍らないことと、この縁切りが凍土遮水壁の海側工事着工の前提となる事から、本当にこの方法でよいのか、という疑問が提示されるようになりました。

そうすると、モックアップ試験を行っていたが、その試験は実地とはかなり条件が違うものであったことが明らかとなり、モックアップ試験でうまくいっても本番ではうまくいかないのも無理はないということが判明しました。つまりは、結果的にはあまり意味のないモックアップ試験を行っていたということです。

その後、一部凍らない部分があるものの9割ほどは凍っているため、残りの凍結を促進するために氷やドライアイスの投入を行いましたが、それはほとんど効果がありませんでした。そこで、氷の壁に加えて間詰め充填という方法が提案され、それを試してみたのが2014年10月末という事になります。しかしながら、先ほど書いたようにこれも完全に縁切りする事はできませんでした。

そうこう議論をしているうちに、凍結なんかできなくても液体のまま汚染水が存在することがリスクなので、汚染水を汲み上げながらコンクリートを充填する方法を取れば、将来的なリスクは減らすことができるという議論が出てきました。有識者の橘髙先生などは当初からこの意見を主張していましたが、結局2014年11月以降は凍結止水もうまくいかなかったこともあり、この方法を用いてトンネル部の充填を行う事になりました。

もちろん、この縁切り計画が提示された2013年秋にはこのような水中不分離性コンクリートは開発されていなかったはずです。トレンチのトンネル部は長いところでは80m近くあるため、これだけの長さをセルフレベリングといって横に広がっていくだけの能力を持った材質の充填剤は1年前にはなかったようです。1年にわたる議論をしているうちに、このような充填性をもった素材が開発されたため、凍結による縁切りができないままで今回のトンネル部の充填に踏み切ったものです。

こうやって経緯を見てみると、東電の方針は場当たり的であるという印象が強いと思います。もう一度情報を整理してみましょう。

トレンチの高濃度汚染水を液体の状態でずっと保有しておくことが将来的な地震や津波を考えた場合には大きなリスクであり、これを除去するというのが当初からの一番重要な目的です。この事は更田委員が監視評価検討会においても何度も言及しています。

しかし、これまで見てきたようにトレンチとタービン建屋とは水みちがつながっており、「縁切り」をしない限りタービン建屋にたまっている汚染水を全て抜かない限りトレンチの水を抜くことはできないと考えられてきました。そのために、流れている水を止めるというかなり難度の高い事にチャレンジして失敗してきたというのがこの1年間の経緯です。

ところが、この1年間の試行錯誤の中で、水中不分離性コンクリートの使用という、「縁切り」ができなくても当初の目的を達成できるかもしれない方法が提案されてきました。水中不分離性コンクリート自体は以前から存在するものですから、おそらくアイデア自体は一年前からあったものと思われます。ただ、80mもの長さにわたって広がるセルフレベリング性を持つような素材が当時はなく、対策として取り上げられなかったのでしょう。

ただ、凍結止水法ではなかなか凍らずに計画から1年以上もかかってしまったという結果論からすると、本当に難易度が高い凍結止水工法をとるのが正しかったのかというと、そうでもないような気もします。この凍結止水法の是非については更田委員から東電に対して総括をするように求められていますので、次回あたりにまとめが出るものと思います。それをみて再度私なりにも考えてみたいと思います。

3.終わりに

これで汚染水に関する今年のまとめは終わりになります。10月以降はなかなか時間をとれなかったため、トレンチの止水についてもかなりはしょった形での報告になってしまいました。

来年も、可能な限り汚染水に関する情報発信は続けていきたいと思いますが、以前よりもなかなか情報が出なくなったことに加えて、世間の関心がどんどん薄くなって行っているため、ブログ更新頻度は落ちる可能性が高いと思います。

時間をとれたら少しこれまでの情報をまとめる作業もしたいとは考えていますが、どこまでできるかわかりませんので、あまり期待せずに待っていていただけるとありがたいです。

今年もお世話になりました。来年もまたこのブログをよろしくお願いいたします。


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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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