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海側遮水壁を閉合すべきか、先に陸側の凍土遮水壁を閉合すべきか?をめぐる検討会での議論(1)

 
少し遅くなりましたが、3/25に行われた第33回監視評価検討会における議論の中で、今後の一番の課題である凍土遮水壁をいつ運用開始するべきか、という議論が行われていますので、これから2回にわけてまとめます。

なんとか次回の検討会(4/22(水))前までに、という目標に間に合わせるため、今回は(1)としてその前提となる海側遮水壁の閉合問題をまとめます。検討会での具体的な議論については(2)で書きたいと思います((2)は来週になるかもしれません)。でも、実は多くの人に知ってもらいたいのは今回の(1)の海側遮水壁の現状についてなのです。


1. これまでの経緯

2013年の地下貯水槽からの汚染水漏れがきっかけとなって汚染水処理対策委員会などで議論されて約260億円もの補正予算が投じられて作ることになったのが陸側遮水壁です。陸側遮水壁(凍土遮水壁)って何?という方は2014年始めに書いた「陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-」をお読みください。

陸側遮水壁(凍土壁)は2014年6月に陸側から着工したもので、2014年度中にほぼ完成しました。当初の計画通り、2015年度に入ったらすぐに運用(凍結)を開始したいというのが東京電力とエネ庁の基本的な考え方です。一方、規制委員会においては、昨年の4月~5月にかけての監視評価検討会(第20回~第22回)において3回にわたってかなり激しく議論されたように、この凍土壁は一度開始してしまったら建屋近辺の地下水に不可逆的な影響を与える可能性があるため、その運用に関しては慎重に検討を行った上で開始すべき、というのが規制側の考え方のようです。

昨年の検討会での議論については、昨年の「規制委の監視評価検討会(4/18)での規制委とエネ庁のバトルは必見!」、「5/2 第21回監視評価検討会のトピックス紹介(凍土壁をめぐる議論)」、「陸側の凍土遮水壁は6月2日に着工へ!第22回監視評価検討会はあっさりと決着」の3回にわたってまとめてありますので、興味のある方はご覧下さい。

昨年度の6月の議論においては、凍土壁の掘削自体は行っても凍結を開始しなければ不可逆的な影響を及ぼすことはないので、工事自体は認めるという結論になり、建屋の陸側から着工しました。ただし、海側のトレンチと建屋との遮断の問題があったため、建屋海側の工事に関してはかなり遅れてのスタートとなりました。その後2014年度に陸側についてはほぼ完成し、あとは海側の、特にトレンチの貫通部周辺が残るだけとなっています。

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4/9 東京電力HP より)


2014年度も終わりに近づき、掘削工事もほぼ終了が近づいてきたため、凍土壁の運用開始について検討会の議題に上がってきました。2/9および3/4の監視評価検討会においては、凍土遮水壁の運用を開始したあとの水位管理についての資料(2/9分2/9の参考資料3/4分)がありますが、特に3/4はK排水路やC排水路からの海への放射性物質の流出が新たに判明したため、実質的な議論はあまり行われませんでした。今回の3/25においては、凍土壁と海側遮水壁とどちらを先に運用開始すべきか、という議論が行われ、その過程において放射性物質を大量に含む地下水が今も港湾内を通じて海に垂れ流しになっているという事実も明らかになってきました。

結論としては、そもそも論として海側遮水壁の閉合と凍土壁の建屋陸側運用開始とどちらを先に行うべきか、ということは次回に持ち越されましたが、東電が提案した部分先行凍結については水位に影響がないと考えられるために大筋で認めるという事になりました。

次回の(2)でもう少し詳しく紹介していきますが、とにかく予定通りに凍土遮水壁の運用を開始したい東電とエネ庁の意向と、凍土遮水壁を運用するよりもまずは海側遮水壁の閉合を行う事が喫緊の課題であり、サブドレンを運用開始してから凍土遮水壁を運用開始するかどうか判断してもいいのではないか、という規制委員会の考え方が正面からぶつかっており、次回あるいは次々回にどういう結論に落ち着くのか、落としどころが私にはまだ見えていません。


2. 海側遮水壁の現状

今回の議論で明らかになった事は、海側遮水壁の閉合問題が改めてクローズアップされたことです。ご存じない方も多いと思いますので今回はこの情報を詳しく取り上げます。

海側遮水壁は2013年春に着工し、2014年春にあと10m前後を残して99%近くが完成しました。「10m前後を残して」、というところが今回の陸側遮水壁の議論にもつながる大きなポイントなのでそれについてはあとで説明します。2014年6月の廃炉・汚染水対策現地調整会議において、海側遮水壁工事の進捗が報告されています。おそらくこれが最後の報告でそれ以降は進捗がないようです。鋼管矢板9本の打設を残して海側遮水壁の工事は完了しており、鋼管矢板と既存護岸との間の埋め立ても順調に進んでいます。残るは4号スクリーン付近に敢えて打設せずに残した約10m分だけとなっています。

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第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 18ページより)

10m前後残っているとは具体的にどんな状況なのか、東電が発表している資料にも写真がありますのでそれをお示しします。前回の「K排水路の港湾内への付け替えと各種排水路情報の整理」でもご紹介したものです。

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廃炉・汚染水対策現地調整会議(第16回)資料1-1 16ページに加筆)

海側遮水壁の現状はどうなっているのか、昨年8月25日の福島県漁連への説明資料がわかりやすいのでそこから引用します。

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2014年8月25日 福島県漁連組合長会議説明資料 より)

何も知らない漁業関係者のための説明資料として、建屋の山側から流れてきた地下水が2011年4月に流出して地下に留まっている高濃度汚染水などと混ざって、まだ打設していない9本分の海側遮水壁のすき間から港湾内に流れ出す様子が東電自らの資料でハッキリと明示されています。ただし、東電の説明としては「事故の影響により汚染された地表面のがれき等にふれた雨水が混合されていることから、放射性物質を含むことが確認されています。」となっています。上の図における地下水の流れの部分を下に拡大しておきます。

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2014年8月25日 福島県漁連組合長会議説明資料 より)

港湾内に流れ出した汚染水は当然のことながら「ブロック」はされておらず、毎日潮の満ち引きによって50%近くが外の海水と入れ替わっていますので、これらの地下水は海へと拡散していることになります。ただし、大量の海水によって大幅に希釈されるため、外海でのモニタリングポイントにおいては基準値以下の濃度の放射性物質しか観測されず、見かけ上「汚染水の影響はブロック」されているというロジックが成り立つわけです(「汚染水はブロック」されているとは安倍首相も言っていないことに注意)。この問題については「「汚染水の影響は港湾内の0.3km2で完全にブロック」発言で本当に議論すべき事は何か?」をご覧下さい。

外海に流れ出している放射性物質の濃度では問題がないとしても、総量としてはいったいどれくらいなのか?これについても東電が資料を出しています。同じ福島県漁連への説明資料に2013年時点の放射性物質の港湾内への流出量が示されています。

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2014年8月25日 福島県漁連組合長会議説明資料 より)

同じ資料を最初に出してきた2014年8月11日の記者会見では2013年8月まではSr-90が136億Bq/日だったのが2013年8月から2014年5月までは40億Bq/日に減少、Cs-137が2013年に224億Bq/日だったのが2014年に20億Bq/日に減少、H-3は2013年に240億Bq/日だったのが2014年には150億Bq/日に減少していました。

海側遮水壁を併合後はさらにそれが1/40程度に下がる予定です、という計画だったのですが、それはいまだに実現していませんから無視して、2014年から2015年にかけてはどうだったのかを見てみましょう。この日の検討会の別の議題で、K排水路からの放射性物質の流出量は実は港湾内への流出量よりも少ないんです、と主張するための資料(資料2-1の66ページ)に2014年4月から2015年2月までの流出量としての評価値が掲載されています。

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第33回監視評価検討会 資料2-1 66ページ より)

2014年に発表された値と合わせて一つのグラフにすると下のようになります。セシウムやストロンチウムは各種緊急対策によってかなり低減しましたが、トリチウムは除去する手段がないため、昨年から今年にかけては減っていないということです。

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そして何よりも、事故当初よりは減少したとは言え、これだけの量の放射性物質がいまだに港湾内を通じて(希釈されて濃度はうすくなっているが)外の海に流れ続けているということは知っておく必要があります。この量(1日あたり)は先ほども表を載せたK排水路からの海への流出量の10倍もあるということを補足しておきます。


3. 海側遮水壁の閉合問題

では、海側遮水壁はいつ閉じるのか。東京電力の方針としては地下水をサブドレンや地下水ドレンを用いて汲み上げて浄化し、海へ移送(放出)するようにできてから海側遮水壁を完全に閉じようという考え方です。(実はこの2週間前の8/11の資料では「最も早い場合,平成26年9月末に閉合できる目途がたちました」という表現があったのですが8/25にはその表現が消えています。)

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2014年8月25日 福島県漁連組合長会議説明資料 より)

サブドレンとか地下水ドレンといってもわかりにくいと思いますので、断面図の模式図で東電が説明している資料も引用します。海側遮水壁は下部透水層を含めて地下水の流れをほぼ完全に遮断することができるため、そのままでは地下水があふれ出してしまいます。そこで、サブドレンや地下水ドレンでたまった地下水を汲み上げる必要があるのです。

0419-3
2014年8月25日 福島県漁連組合長会議説明資料 より)

しかしながら、現状では地下水ドレンやサブドレンの水は放射性物質で汚染されており、そのまま排出することができません。そこで浄化装置を設けて放射性物質を一定の濃度以下にしたあとでその水を海へ放出(東電の表現としては「移送」)する事を計画していました。これらの浄化した水をタンクに溜めておくという考え方は東電にはなく、タンク増設計画にも最初から入ってません。

そのための漁連への説得、説明を2014年の終わりから行ってきたのですが、その矢先に起こったのが2015年2月のK排水路からの高濃度の放射性物質を含む水の海への流出事件(とそれに伴う情報隠し)でした。その直前までは漁連への説得が進んでいたのですが、これでサブドレンや地下水ドレンの運用は振り出しに戻り、いつ運用開始できるかまだ見通しは立っていません。

以上が海側遮水壁の現状とその閉合をめぐる問題点です。海側遮水壁はまだ完全には閉合できていないため、放射性物質が海に大量に垂れ流し状態が続いている。しかしながら、それを閉合するためには地下水ドレンとサブドレンを動かして浄化した水を海に排水する必要があり、それは漁連との交渉がうまくいかないためにいつになるか見通しが立っていない。このような現状を踏まえた上で、陸側遮水壁(凍土壁)をどうやって運用していくのか、ということを考えていく必要があるのです。

このあとの具体的な凍土遮水壁の運用に関する話は(2)で取り上げたいと思います。しばらくお待ち下さい。


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コメント

凍土壁

凍土遮水壁について現状がどうなっているのか素人にはよく解らない。
冷媒についてはなぜ液体窒素ー200°Cを使わないのか、また軽作業であれば
ドライアイス+エチルアルコールでー90°Cは可能。
現場に小規模液体窒素プラントを作るのは困難ではないと思うが。
液体窒素にはいろいろな用途があるのではないか。

卵が先か、鶏が先か?

私は近い将来、結局どちらも運用してみる事にはなると思っています。

しかしながら、現在今年四月には本格運用するはずだった陸側遮水壁の山側がやっと出来かかっている中途半端な状況で、「毎日海に垂れ流しているのだから早くサブ・地下水ドレンを放出しろ!」というのは、やはりいささか暴論であるように聞こえます。モノには言い方があると思います。

それぞれの問題点を整理してみますと

・サブドレイン/地下水ドレン
一度浄化試験をしただけなので、2~3ヶ月位の長期スパンで実運用テストしてみる必要がある。←ALPS程ではないにしろフィルター関係の詰まりで、ちょくちょく停止するとしたら、使い物にならないかもしれません。またその運用過程で、トリチウムが告示濃度を下回る事だけでなく、その他の核種も安定して除去できている事が肝心です。また、井戸の底が常時拡販される事で、想定より濃度が高まる事も予想されます。(たぶん東電はこれに自信が無い)このあたりが確認されて始めて、議論の土台に載せるべきです。

・陸側遮水壁
運用間近になって、東電はいくつかの孤立した隔壁内で実際は地下水位より高い状態だった事を明かしました。現場の規制庁の担当もこれについて、厳しく指導したようですが、K排水路の雨水汚染問題隠しより、ある意味卑怯な隠蔽であると思いました。

高坂さんも指摘していましたが、こうした隔壁内のポンプ運用が果たしてレスポンス良く行われるか?は注意すべきPOINTです。また、これ以外でも10m盤にある無数の枝排水路の汚染状況や水位も含めた管理を行う事ができるのか?これは、サブドレインのみの運用でも同様の問題があると思います。

(私は実際に海陸閉じると、一旦は海側の水位がダムアップし、そののちにだんだん全体的に下がっていくと思います。もしそうなった場合、サブドレインは不要となるかもしれません)

■まずはどちらもTEST運用をするべき
どちらの方法も憂慮されるべき短所があり、机上でパワーポイントとにらめっこしても分かりようがありません。シュミレーションをいくらやっても想定外のトラブルが起こりえるのではないでしょうか?

ですから環境アセスの問題として、まず第一にやるべき事は、「一定期間のTESTをさせてもらう事を了承してもらう」べきです。そののちに議論を再開して、サブドレインの排出と遮水壁の配分を決定するのが理にかなっています。規制委は【いたずらに煽るだけが仕事ではない】と思います。

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twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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