海側遮水壁の閉合とその効果-汲み上げた護岸の地下水は建屋に戻して汚染水が増えている?-
しばらくぶりの更新になります。
2015年10月26日に海側遮水壁が最終的に閉合されました。
その効果がどうなるのか、だれもが気になっていたところですが、昨日(12月18日)に行われた規制委員会の第38回監視評価検討会において、予想外の情報が出てきましたのでその話も含めてお伝えします。
福島第一原発の護岸近くに流出した汚染水と混ざって汚染された地下水がこれ以上海に流出し続けることを防ぐために設置された海側遮水壁ですが、完全に閉合してしまうと地下水の水位が上がってしまうことが予想されていました。そのため2014年にはほぼ完成していたのに、サブドレンの運用ができない限りは完全に閉合することはできない、ということで海側遮水壁は閉合されていませんでした。
しかし、サブドレンの運用について、福島県漁連の了解も得られたため、サブドレン・地下水ドレンの運用を始めるとともに、海側遮水壁が閉合されることが2015年9月に決まりました。そこで残りの9本の鋼管矢板を打設し、最後の10m程度を閉合するという作業を行い、10月26日に完成しました。
その結果、地下水ドレンポンドと呼ばれる場所の水位が上昇してきました。下のグラフは、11/25に行われた汚染水対策現地調整会議の資料です。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 38ページより)
あとの話題にも関連するので説明しておくと、地下水ドレンポンドというのは、旧護岸と海側遮水壁の間の埋め立てた部分に地下水を貯めることが出来るようにした場所のことで、5箇所の地下水ドレンポンドから地下水を汲み上げられるようになっています。汲み上げた地下水は、3箇所の中継タンクにいったん貯めて、そこから集水タンクに移送し、サブドレン水と合流させて浄化してから海に排出するという形をとっています。東電のHPにも説明のページがあります。

(2014年10/30 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議 資料3-2 より)
先ほどの資料の続きを見ると、下のグラフにあるように、海側遮水壁を閉合することによって地下水がせき止められて、地下水ドレンポンドの水位が上昇すると、それに並行して港湾内の開渠と呼ばれる地点の放射性物質濃度が明らかに下がってきたことがわかります。11/5から地下水ドレンのポンプを24時間運用してもその傾向は変わっていません。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 42ページより)
ということは、海側遮水壁を閉合することによって放射性物質が海に流出しなくなったということと同時に、これまでは放射性物質が地下水として海にダダ漏れの状態で流れていたということの証拠でもあるのです。
これはある意味予想されたとおりでしたが、この日にニュースになったのはこの件ではなく、海側遮水壁が地下水の圧力で少し海側にたわんでいたり、舗装面にひび割れができていることがわかった、という話でした。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 39ページより)
海側遮水壁にせき止める効果があることはまあ予想通りでしたが、同時に稼働させたサブドレンの効果があったのかどうか、それについては今月になって報告が出てきました。
このことが最初に報告されたのは12/11の第17回汚染水処理対策委員会で、建屋に流れ込んでいる汚染水が1日あたり約300トンから200トンに減ったという報告がありました。その日の資料はちょっとわかりにくいのでここでは省略します。
12/18に行われた規制委員会の第38回監視評価検討会においては、有識者委員が入れ替えになってはじめての会合だったため、これまでの経緯も含めた説明が資料に盛り込まれていました。
その中の資料1-2では、陸側遮水壁の議論をするために、海側遮水壁の閉合とサブドレンの閉合によってどのような結果が得られたかの説明がありました。このなかの19ページです。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 19ページより)
情報量が多すぎてわかりにくいのですが、右側に文字で書いてあるように「O.P.4m盤の汚染エリアへ地下水流入が継続しており、建屋への移送量が400m3/日程度となっている。」ということです。下にグラフ部分だけを再掲しますが、2番目のグラフの一番右側で、オレンジ色の部分が11月中旬以降に出現していることがわかると思います。これが、地下水ドレンから汲み上げて建屋に移送している分だそうです。なお、その下のグラフにある緑色の部分が地下水ドレンで汲み上げてサブドレンと一緒に浄化処理をした分なので、ほとんどが処理せずに建屋に移送しているということですね。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 19ページより)
なお、同じこの上のグラフを見ると、確かにサブドレンの24時間稼働を開始した9/17以前と以降では、建屋流入量が1日約300トンから約200トンに減っていることがわかります。
地下水ドレンの話、意外だったのでもう少し詳しく調べてみると、汲み上げた地下水の放射性物質濃度は中継タンクの段階で測定されていることがわかりました。それは東電のHPのこのページに載っています。12/7にまとめて「中継タンクの分析結果」としてデータが公表されたようです(7日(9月分)、7日(10月分)、7日(11月分))。
一例を示すと、下の表で右側ですが、中継タンクのAとBはかなり放射性物質(特に全βとトリチウム)の濃度が高く、中継タンクCはあまり高くないことがわかります。トリチウムは浄化施設でも除去できませんので、これだけ高いと現状では建屋に戻すしかない、ということなのでしょうね。

(東電HP 12/7 中継タンクの分析結果 より)
下の図をみるとよくわかりますが、中継タンクAは1号スクリーン付近、中継タンクBは2号スクリーン付近ですので、この付近が全βやトリチウムが高いのは過去の実績からしても当然だと思います。ただ、これらの汲み上げ量の内訳がHPの資料ではわからなかったのですが、よく見ると先ほどの11/25の会議資料にそれも載っていました。

(東電HP 12/7 中継タンクの分析結果 より)
これを見ると、11月になってから地下水ドレンで汲み上げた地下水のうち、4号機付近の地下水を集めてくるポンドEの分だけが浄化されていますが、あとは浄化施設に回さずにタービン建屋に移送していたということなのですね。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 38ページより)
結局、現状ではどのような水の収支になっているか、ということが12/18の監視評価検討会の資料にまとめられていました。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 22ページより)
これによると、建屋周辺には降雨と山側からの地下水で合わせて1日あたり約850トンが供給されています。そのうちサブドレンで汲み上げているのが約390トン、建屋に流入するのが約200トンで、残りの約260トンが護岸の4m盤と呼ばれるエリアまで移動します。これまでは全て海に流れ出ていましたが、海側遮水壁を閉合してからは、ウエルポイントで約80トン、地下水ドレンで約90トンをそれぞれ汲み上げ、埋め立てエリア(地下水ドレンポンド)の水位上昇になっている分が約110トン、海側遮水壁と透過する水もゼロではないのでそれが約10トンという形で、ほとんどが汲み上げている形になっています。
今回の監視評価検討会においても大きな議論になりましたが、サブドレンの運用によっても建屋への地下水流入は1日約300トンから約200トンにしか減らすことができませんでした。一方で、地下水ドレンで汲み上げた地下水のほとんどとサブドレンの一部を含めて1日約400トンをタービン建屋に戻さざるを得ないということから、トータルでは建屋の汚染水量はサブドレン稼働前よりも増えていることがわかりました。そのため陸側遮水壁の運用目的に新たに、護岸付近の4m盤に地下水を移行させない、ということが加わりました。
このことが陸側遮水壁の議論にどう影響するのかわかりませんが、今後も見守って行きたいと思います。次回の検討会は2月以降だそうです。
なお、今回は私自身があまりデータを分析していないので取り上げませんでしたが、建屋に戻さざるを得ないという事態によって、汚染水の水収支は(少なくとも一時的に)悪化することになります。タンク容量がどうなるのか、そのあたりについてはコンタンさんがまとめているtogetterや関連リンクをご覧下さい。
久し振りにまとめましたが、次回はいつになるかわかりません。ただ、期待せずに気長に待っていていただければと思います。
しかし、サブドレンの運用について、福島県漁連の了解も得られたため、サブドレン・地下水ドレンの運用を始めるとともに、海側遮水壁が閉合されることが2015年9月に決まりました。そこで残りの9本の鋼管矢板を打設し、最後の10m程度を閉合するという作業を行い、10月26日に完成しました。
その結果、地下水ドレンポンドと呼ばれる場所の水位が上昇してきました。下のグラフは、11/25に行われた汚染水対策現地調整会議の資料です。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 38ページより)
あとの話題にも関連するので説明しておくと、地下水ドレンポンドというのは、旧護岸と海側遮水壁の間の埋め立てた部分に地下水を貯めることが出来るようにした場所のことで、5箇所の地下水ドレンポンドから地下水を汲み上げられるようになっています。汲み上げた地下水は、3箇所の中継タンクにいったん貯めて、そこから集水タンクに移送し、サブドレン水と合流させて浄化してから海に排出するという形をとっています。東電のHPにも説明のページがあります。

(2014年10/30 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議 資料3-2 より)
先ほどの資料の続きを見ると、下のグラフにあるように、海側遮水壁を閉合することによって地下水がせき止められて、地下水ドレンポンドの水位が上昇すると、それに並行して港湾内の開渠と呼ばれる地点の放射性物質濃度が明らかに下がってきたことがわかります。11/5から地下水ドレンのポンプを24時間運用してもその傾向は変わっていません。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 42ページより)
ということは、海側遮水壁を閉合することによって放射性物質が海に流出しなくなったということと同時に、これまでは放射性物質が地下水として海にダダ漏れの状態で流れていたということの証拠でもあるのです。
これはある意味予想されたとおりでしたが、この日にニュースになったのはこの件ではなく、海側遮水壁が地下水の圧力で少し海側にたわんでいたり、舗装面にひび割れができていることがわかった、という話でした。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 39ページより)
海側遮水壁にせき止める効果があることはまあ予想通りでしたが、同時に稼働させたサブドレンの効果があったのかどうか、それについては今月になって報告が出てきました。
このことが最初に報告されたのは12/11の第17回汚染水処理対策委員会で、建屋に流れ込んでいる汚染水が1日あたり約300トンから200トンに減ったという報告がありました。その日の資料はちょっとわかりにくいのでここでは省略します。
12/18に行われた規制委員会の第38回監視評価検討会においては、有識者委員が入れ替えになってはじめての会合だったため、これまでの経緯も含めた説明が資料に盛り込まれていました。
その中の資料1-2では、陸側遮水壁の議論をするために、海側遮水壁の閉合とサブドレンの閉合によってどのような結果が得られたかの説明がありました。このなかの19ページです。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 19ページより)
情報量が多すぎてわかりにくいのですが、右側に文字で書いてあるように「O.P.4m盤の汚染エリアへ地下水流入が継続しており、建屋への移送量が400m3/日程度となっている。」ということです。下にグラフ部分だけを再掲しますが、2番目のグラフの一番右側で、オレンジ色の部分が11月中旬以降に出現していることがわかると思います。これが、地下水ドレンから汲み上げて建屋に移送している分だそうです。なお、その下のグラフにある緑色の部分が地下水ドレンで汲み上げてサブドレンと一緒に浄化処理をした分なので、ほとんどが処理せずに建屋に移送しているということですね。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 19ページより)
なお、同じこの上のグラフを見ると、確かにサブドレンの24時間稼働を開始した9/17以前と以降では、建屋流入量が1日約300トンから約200トンに減っていることがわかります。
地下水ドレンの話、意外だったのでもう少し詳しく調べてみると、汲み上げた地下水の放射性物質濃度は中継タンクの段階で測定されていることがわかりました。それは東電のHPのこのページに載っています。12/7にまとめて「中継タンクの分析結果」としてデータが公表されたようです(7日(9月分)、7日(10月分)、7日(11月分))。
一例を示すと、下の表で右側ですが、中継タンクのAとBはかなり放射性物質(特に全βとトリチウム)の濃度が高く、中継タンクCはあまり高くないことがわかります。トリチウムは浄化施設でも除去できませんので、これだけ高いと現状では建屋に戻すしかない、ということなのでしょうね。

(東電HP 12/7 中継タンクの分析結果 より)
下の図をみるとよくわかりますが、中継タンクAは1号スクリーン付近、中継タンクBは2号スクリーン付近ですので、この付近が全βやトリチウムが高いのは過去の実績からしても当然だと思います。ただ、これらの汲み上げ量の内訳がHPの資料ではわからなかったのですが、よく見ると先ほどの11/25の会議資料にそれも載っていました。

(東電HP 12/7 中継タンクの分析結果 より)
これを見ると、11月になってから地下水ドレンで汲み上げた地下水のうち、4号機付近の地下水を集めてくるポンドEの分だけが浄化されていますが、あとは浄化施設に回さずにタービン建屋に移送していたということなのですね。

(2015/11/25 汚染水対策現地調整会議 資料1-1 38ページより)
結局、現状ではどのような水の収支になっているか、ということが12/18の監視評価検討会の資料にまとめられていました。

(12/18 第38回監視評価検討会 資料1-2 22ページより)
これによると、建屋周辺には降雨と山側からの地下水で合わせて1日あたり約850トンが供給されています。そのうちサブドレンで汲み上げているのが約390トン、建屋に流入するのが約200トンで、残りの約260トンが護岸の4m盤と呼ばれるエリアまで移動します。これまでは全て海に流れ出ていましたが、海側遮水壁を閉合してからは、ウエルポイントで約80トン、地下水ドレンで約90トンをそれぞれ汲み上げ、埋め立てエリア(地下水ドレンポンド)の水位上昇になっている分が約110トン、海側遮水壁と透過する水もゼロではないのでそれが約10トンという形で、ほとんどが汲み上げている形になっています。
今回の監視評価検討会においても大きな議論になりましたが、サブドレンの運用によっても建屋への地下水流入は1日約300トンから約200トンにしか減らすことができませんでした。一方で、地下水ドレンで汲み上げた地下水のほとんどとサブドレンの一部を含めて1日約400トンをタービン建屋に戻さざるを得ないということから、トータルでは建屋の汚染水量はサブドレン稼働前よりも増えていることがわかりました。そのため陸側遮水壁の運用目的に新たに、護岸付近の4m盤に地下水を移行させない、ということが加わりました。
このことが陸側遮水壁の議論にどう影響するのかわかりませんが、今後も見守って行きたいと思います。次回の検討会は2月以降だそうです。
なお、今回は私自身があまりデータを分析していないので取り上げませんでしたが、建屋に戻さざるを得ないという事態によって、汚染水の水収支は(少なくとも一時的に)悪化することになります。タンク容量がどうなるのか、そのあたりについてはコンタンさんがまとめているtogetterや関連リンクをご覧下さい。
久し振りにまとめましたが、次回はいつになるかわかりません。ただ、期待せずに気長に待っていていただければと思います。
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